村上春樹「1Q84」に登場するヤナーチェック「シンフォニエッタ」の演奏を比較する。
ヤナーチェック作曲「シンフォニエッタ」のポケットスコア(Eulenburg/Zen-on)がAmazonから届いた。この曲の印象を決定づける第1楽章「ファンファーレ」のユーフォニアムと金管の演奏をスコアを眺めながら少し比較して楽しんでみたい。
村上春樹「1Q84」には出てこないCDだが、この曲の初演をしたオーケストラであるチェコフィルの演奏を聴く。ファンファーレなのに冒頭トランペット(Tp)、トロンボーン(Tb)はお休みで、2本のテノール・テューバ(ユーフォニアム)から始まる。しかも全てスラーがついている。フロントベルで輝かしく始まる普通のファンファーレとはかなり趣が異なる。そこをなるほどチェコフィルの演奏は<>に加えヴィブラートもかけながら非常によく歌っている。ユーフォニアムの音量も響きも豊かでのびのびしている。もっとも濃厚な演奏ということもあり、「1Q84」の教団リーダーがもし聴いたとすれば、このCD(ノイマン指揮)だろう。なお、25小節から30小節の間は、私のスコアとは版が異なっているのかもしれない。
天吾が聴いてた小澤征爾・シカゴ響はTpもTbもストレートに堂々と響いてくる。最後の方は高音が続ききつくなってくるところだが、そこはさすがシカゴ響の金管である。素晴らしい。Tbが他の2つの演奏よりも前に出てくるのと、これも少し版が違うのかもしれないが、いつもとは異なった印象のところがあった。天吾が吹奏楽で経験したティンパニは、こんなイメージだったのだろうか。3つの演奏それぞれティンパニの響きが特徴的なので、このあたりも楽しめる材料だ。妻と相談し、チェコをゴールド系イエロー、シカゴを深みのあるブルー、クリーヴランドをブラウンとティンパニの音色を表現してみた。このレコードは若き日の1969年の録音ということで、あちこちのメジャーオーケストラに客演してその実力をPRしていた時代のもの。CDは「1Q84」人気で、最近1万枚の再販が決まったようだ。
青豆の聴いていたセル・クリーヴランド管。完全主義者といわれるセルと彼自らが鍛え上げたクリーブランド管と青豆は求める方向がぴったり。演奏はいかにもファンファーレらしくユーフォニアムもアクセントぎみに入ってくる。チェコフィルとは対極に位置する表現。演奏テンポもいちばん遅くしっかりとした歩みをみせる。重厚な雰囲気は深い秘密(任務)を担う青豆のイメージと重なる。同じアメリカのオケであっても小澤版とは相当違う。
この曲に関して、ヤナーチェックは「今日の人間の自由、平等、喜び、そして時代に立ち向かう勇気と勝利への意志」と書き記している。なお、スコア自体には記載されていないが、第2楽章「城」、第3楽章「僧院」、第4楽章「街頭」、第5楽章「市役所」という表現がそれぞれ与えられているようだ。全部で約25分程度の短い曲なので、是非全楽章を聴いていただきたい。最後の楽章では再度ユーフォニアムのファンファーレが再現される。
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